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AI活用に秘密計算を使う3つの理由とそのメリット

DXの大きな柱の一つ「データ活用」を支えるテクノロジーとして発展を続ける、AI(人工知能)。とくに画像・音声認識や自然言語処理等が目覚ましい進歩を遂げており、AI活用への期待は高まっています。

一方、AIによるデータ解析では、個人情報や独自開発技術のような機密性の高いデータを扱うケースも多いことから、情報漏えいや不正利用といったセキュリティリスクにも目を向けなければなりません。

それぞれの企業には、DX推進と同様にプライバシー保護についても経営課題として捉え、適切な対策を取ることが求められているのです。

今回は、AI活用におけるプライバシー保護対策として注目される「秘密計算」について、導入の意義を解説。さらに「AI × 秘密計算」によって実現できることを、具体的な例を用いてご紹介します。

 

AI活用に秘密計算が必要な3つの理由

AI活用において秘密計算技術を利用する意義から説明します。

 

データ漏えいや悪意のある攻撃を防ぐため


従来の暗号は、データの通信・保管時にのみ暗号化を行うことでデータを保護する仕組みになっています。解析等のデータ処理をおこなう時は、一度暗号を解いて元の状態に戻さなければならず、処理中のセキュリティが脆弱になるリスクがありました。

秘密計算とは、暗号化した状態で機密なデータを計算できる技術のことです。

秘密計算技術を使えば、通信・保管時だけでなくAIの学習時もデータを暗号化したままで処理できるため、データ漏えいや不正利用のリスクの回避につながります。

 

個人情報保護法やGDPRに対応するため


データを活用するにあたって考えなければならないのは、情報の漏えいや不正利用のリスクだけではありません。近年は、個人情報保護法やGDPR(General Data Protection Regulation=EU一般データ保護規則)、サイバーセキュリティ基本法といった法令を遵守することが重視され、データセキュリティ・プライバシー保護に対する向き合い方が問われています。

個人情報保護法やサイバーセキュリティ法といった法規制に対応しつつ分析を実現するには、データの秘匿性を保った状態でデータを活用する秘密計算技術のような仕組みが必要です。

とくに今後は、企業が十分な情報セキュリティ対策をとってプライバシー保護に対する社会的要請に応えることは、企業の社会的信用を高めることにもつながります。

一般的なセキュリティ対策に加えて秘密計算をはじめとする新しい暗号化技術を取り入れることは、企業が社会的な信頼を維持し続けるためにも有効です。

 

企業間のデータ連携・分析を推進するため


秘密計算を活用することで、データ処理時の漏えいを防ぐだけでなく「関係者がデータの中身を見ずに処理する」ことも実現します。

つまり、これまで他組織に開示することが難しかった機密データを持ち寄り、複数の企業間で統合分析を行うことが可能になるのです。

これにより、"競合他社が互いに現状や戦略を明かさずに協業し、業界の総合的なデータをもとに自社サービスのアップデートや商品開発を行う""業界の垣根を越えたデータ連携で、より高精度な需要予測を行う"といったことが可能です。くわえて個々のローカル環境で学習したデータを統合する「フェデレーテッドラーニング(連合学習)」を活用することで、プライバシーを担保しながらより高い精度の解析を導き出すこともできます。

【フェデレーテッドラーニング(連合学習)】

複数組織間でのデータ連携を実現する技術として、秘密計算の他に「フェデレーテッドラーニング」があります。

  • 秘密計算:データを暗号化し秘匿化した状態でデータ共有・分析を行う
  • フェデレーテッドラーニング:データ自体は共有せず、個々のデバイス/ローカル環境で特定のAI解析を行って得られた改善点等の要素(ex.顔認証用顔データの学習結果、不正送金の「傾向値」)のみを収集・統合する

フェデレーテッドラーニングについて、詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。

※EAGLYSのフェデレーテッドラーニング紹介ページはこちら
https://www.eaglys.co.jp/use-case/federated-learning

AI活用×秘密計算で実現できること

さらにAIと秘密計算の活用方法を理解していただくために、続いて製造・医療・物流の3つの領域でAIに秘密計算が応用された事例をご紹介します。

【製造】複数工場のデータをクラウドで解析し、AIのパフォーマンスの向上


■課題

製品の品質向上と製造作業の効率化のために、AIを活用した外観検査をオンプレミス環境にて行っていた。メンテナンスコスト削減とAIのパフォーマンス向上のため、クラウド移行を検討するも、セキュリティリスクへの懸念から実行できずにいた。


■「AI × 秘密計算」が実現できること

AI解析向けの秘密計算ソフトウェアを導入したことで、クラウド上において、データだけでなく独自開発されたAIモデル自体も暗号化した状態でAI画像解析が行えるように。現在は複数工場のデータをクラウド上で解析し、さらなるパフォーマンス・製造効率の向上に取り組んでいる。

※EAGLYSの製造業におけるユースケース紹介はこちら
https://www.eaglys.co.jp/use-case/manufacturing

 

【医療】医療データの連携で個別化医療や創薬プロセスの効率化


■課題

患者一人ひとりの体質や病状に合わせて適切な治療方法を選択する「個別化医療」の実現や、創薬プロセスにおける研究開発の生産性向上のため、医療データ連携の重要性が高まっている。しかし、医療データは機密性が非常に高く、データ連携のセキュリティ水準の維持とデータの秘匿性の確保が必要。


■「AI × 秘密計算」が実現できること

秘密計算技術を用いたデータベース向けソフトウェアを用いることで、データを秘匿化した状態のままクラウド上で共有・連携・解析が可能に。「プライバシー保護」と「医療データの臨床への活用・創薬プロセスの効率化」の両立を実現できる。

※EAGLYSの医療分野におけるユースケース紹介はこちら
https://www.eaglys.co.jp/use-case/medical

 

【物流】生産量の調整や配送計画策定の精度・スピードの改善


■課題

オンライン市場の拡大によって物流量が増加し、さらに高速輸送の需要も増したことで、トラックや人手の不足・運送費の高騰・運転手の労働の長時間化等、さまざまな問題が発生。出荷から配送に至る工程において、生産性の向上が求められている。


■「AI × 秘密計算」が実現できること

秘密計算技術を用いることで、メーカー・卸・小売のようなサプライチェーン上の各企業が保有するデータを、秘匿性とセキュリティを維持したまま連携・利活用できるように。生産量の調整や配送計画策定の精度・スピードの向上、廃棄ロスの低減、欠品率の低下につなげることで、生産性の向上とコスト削減が進められる。

※EAGLYSの物流業におけるユースケース紹介はこちら
https://www.eaglys.co.jp/use-case/logistics

 

AI活用と秘密計算の今後

プライバシー保護に対する危機意識や社会的要請の高まりを受け、情報ガバナンスやデータ保護にまつわる国内外の市場は今後も拡大を続けると予測されています。これに伴い、秘密計算についてもユーザーの活用領域が広がり、市場規模も拡大していくと考えられます。

EAGLYSは、こうした情勢を背景に、秘密計算を中心としたデータセキュリティ技術とAI設計技術で、企業のセキュアなデータ利活用を支援しています。

また、秘密計算やAIを題材にしたオンライン学習コンテンツの監修に携わる等、個別企業の課題を解決するだけでなくさまざまなアプローチによって、社会におけるデータセキュリティ・データ利活用やAI活用を推し進めています。

 

まとめ


秘密計算は、近年のAI活用の取り組みに必要不可欠な技術です。秘密計算技術を用いることで、データの受け渡し・共有・統合分析処理の過程におけるデータ漏えいや不正利用を防ぐことが可能です。さらに、企業間のデータ連携・分析も加速させ、データ利活用の取り組みを推進することにもつながります。

AI活用時のセキュリティ対策や、社内外でのセキュアなデータ利活用を検討されている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

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