コラム

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?注目される理由や取り組み事例も解説

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目次

ビッグデータやAIなど情報処理技術は日々進化し、材料開発の研究にも情報科学を活用する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」が注目されています。

この記事では、概要や取り組み事例を学び、材料開発に役立てたい方のために、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)について解説します。

マテリアルズ・インフォマティクスとは

材料開発のプロセスを大きく変える、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)について詳しく解説します。


マテリアルズ・インフォマティクスの概要


マテリアルズ・インフォマティクスとは、化学産業における製品設計にデジタル技術や過去のシュミレーションの結果を活用する取り組みです。これを活用することで、膨大な実験や論文を解析するとともに、材料開発の効率化を目指します。

研究者の経験をデータが下支えすることで飛躍的な進歩が期待される一方、データの不足や高精度に分析する技術の課題も指摘されています。

マテリアルズ・インフォマティクスを活用するメリット


これまでの材料開発では、経験や知見に基づきすべての材料に対してシミュレーションを行う必要がありました。そのため、材料開発に10年以上かかることも珍しくありません。

マテリアルズ・インフォマティクスでは、材料設計の段階で過去の実験結果や検証データを活用して材料を絞り込み、その材料に対してのみシミュレーションを行います。

従来の手法との違い


材料開発はおもに理論計算・実験・機能確認のプロセスにわけられますが、これまでは研究者の経験や勘に大きく頼っていた側面がありました。

マテリアルズ・インフォマティクスを取り入れることで、研究者の経験や勘に加え材料データベースや過去に実施してきた実験・検証の結果を活用できるため、材料開発にかかる時間とコストの大幅な削減が見込めます。これにより、未知の材料の発見につながっています。

マテリアルズ・インフォマティクスの歴史

ここでは、世界と日本で進められているマテリアルズ・インフォマティクスの歴史について解説します。

世界の動き


2011年にアメリカのオバマ政権が、科学政策Materials Genome Initiative(MGI)を打ち出しました。新材料の発見から実用化までの時間短縮を目指し、約5億ドルが出資されました。

また、欧州ではマルチスケール計算材料科学の確立、中国では中国科学院と中国工学院が連携してMGIに着手、韓国では2015年から10年計画でプロジェクトを立ち上げるなどし、すでに研究成果を上げているところもあります。素材開発競争が激化するなかで、今後の拡大が想定されています。

<海外メーカーの動き>

時期国名内容
2012年10月韓国複合会社がアメリカの大学と共同で、リチウムイオン電池の材料を発見
2017年6月アメリカソフトウェア開発企業がカナダの企業と提携し、新しい化学品・材料の開発を行う
2018年6月ドイツ総合化学会社がアメリカのベンチャー企業と提携し、AIの活用を目的とした新たな触媒材料の開発を行う
2019年3月ベルギー化学企業が、新材料開発のためアメリカのベンチャー企業に出資
2019年10月ドイツ特殊化学品メーカーがアメリカの企業と提携し、高機能プラスチックの開発・製造を行うプロフジェクトを立ち上げる

日本の動き


日本では、2013年に内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が始まり、AIの発展において大きく注目されています。政府はさまざまな業種や企業や人、データや機械などの繋がりによる課題解決を目指すConnected Industriesでもマテリアルズ・インフォマティクスが重要だと考え、政府系研究機関が中心となりデータベースの整備を行っています。

また、日本の大学が海外メーカーや大学と共同研究をしている事例もあります。

<日本メーカーの動き>

時期提携企業・大学内容
2014年日本の電機メーカー京都の大学との産学協同研究にて、マテリアルズ・インフォマティクスを用いた2次電池材料の開発を行う
2016年アメリカの大学日本のテクノロジー企業と提携し、有機太陽電池材料の探索を行う
2018年韓国の複合会社韓国の複合会社が日本の大学発のベンチャー企業と提携し、有機LEDを活用した製品開発を行う

マテリアルズ・インフォマティクスが注目される理由

日本でマテリアルズ・インフォマティクスが注目されるようになった背景には、材料開発が日本の輸出産業のにおいて重要である点、その材料開発のプロセスに課題があった点、学術研究とビジネスを融合させて実績を上げている点が大きく影響しています。

日本では、輸出産業の約2割を素材が占めています。しかしその材料開発の課題は、良質なデータがあるのに十分に共有されていないことでした。そんななか、韓国企業とアメリカの大学が新電池をわずか数年で開発します。このことをきっかけとして、素材開発プロセスの進展が渇望されてきた日本でも、マテリアルズ・インフォマティクスに注目が集まるようになりました。

日本企業の代表的な取り組み

短時間で材料開発が期待できるマテリアルズ・インフォマティクスを活用した、日本企業の代表的な取り組みを解説します。


1. 化学製品・医薬品などの大手総合科学メーカー


化学製品・医薬品などの大手総合科学メーカーでは、2019年にデジタルトランスフォーメーションの一環として、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の活用を始めました。研究・開発のためにインフォマティクス推進センターを設置し、多くの材料開発に導入しています。在宅勤務でもコンピューター上での探索が可能になり、大きな成果をあげています。

2. 化学製品の大手総合化学メーカー


某化学製品の大手総合化学メーカーでは、データを活用した研究開発の効率化と高度化を図り、生産性の向上を目指しています。デジタル革新部を設置し、人材の確保や育成、データ基盤の構築、データ解析など重要な役割を担います。データを活用した結果、わずか20回ほどの実験で最適解を発見した事例もあります。

3. 化学製品・情報関連の素材メーカー


化学製品・情報関連の素材メーカーでは、理論計算とデータ科学を駆使し、研究や開発の効率化を目指し、データベース化した社内データを活用して、試作品づくりの高速化を実現しました。その結果、次世代の炭素繊維強化プラスチック・CFRPを短期間で開発することに成功し、航空機や自動車などへの実用化を目指した実証を行っています。

4. 大手タイヤ・ゴムメーカー


某大手タイヤ・ゴムメーカーでは、2015年に多目的設計探査シミュレーション技術を開発し、2017年にAIを活用したシミュレーション結果の探索を行うなど、着実に材料開発の時間短縮が実現しました。同社の発表によると、2021年には、ゴムの配合物性値予測システムにおいてAIを活用して開発し、タイヤ用ゴムの実用化を目指しています。

5. 大手自動車メーカー


某大手自動車メーカーは、排ガス触媒や磁石、半導体や電池などの分野において、業界の先駆けとしてマテリアルズ・インフォマティクスを取り入れています。自動車開発で培ったデータ活用のメソッドをもとに開発した材料解析クラウドサービスを業界全体に向けて提供開始し、少量のデータしか持ち合わせない企業も、マテリアルズ・インフォマティクスの第一歩を踏み出せると話題です。

6. 国立大学の工学研究科


某国立大学では、マテリアルズ・インフォマティクスの活用と、材料科学者・物性物理学者・情報科学者が連携することで、これまでより1桁以上低い熱伝導度である超低熱伝導物質を効率的に多数発見する実績をあげています。材料の開発において、選択肢を大きく増やした重要な成果として注目されています。

マテリアルズ・インフォマティクスを取り巻く課題

マテリアルズ・インフォマティクスには、多くの課題が残されています。ここではマテリアルズ・インフォマティクスの課題について解説します。

データの質と量の不足


データ量や質の不足があげられます。良質なデータの蓄積と活用が重要ですが、失敗したデータを活かすことも大切なポイントです。紙ベースで保存されていたり自社データでは不足していたりすることもあり、解析可能な形式でのデータ蓄積が求められます。不足しているデータを補うとともに、整備していくスキルも必要です。

機密情報の扱い


マテリアルズ・インフォマティクスで扱う情報は研究開発情報のため、機密性が高いことが特徴です。この情報を各企業や研究者が取り扱える仕組みづくりは、長年の課題となっています。情報の機密性を守りつつ、共通指針の策定や共用施設の整備など、データを共有できる環境づくりが求められています。

専門人材の不足


マテリアルズ・インフォマティクスでは、複数種類のデータを複雑な手順で高精度に分析するため、高度な技術が必要となります。データを解析するための専用のツールを用意する必要もあります。それぞれの分野に長けた専門家が必要ですが、人材確保が難しいとされています。

マテリアルズ・インフォマティクスの今後の展望

マテリアルズ・インフォマティクスは活用のメリットが大きく、長期にわたり研究され続けているほか、各社での取り組みも始まるなど導入の拡大が期待されています。

また、地球規模では環境問題が深刻化するなか、責任のある生産活動が求められています。そのためには従来の開発方法から脱却し、持続可能な材料の使用や高機能材料の開発を早期に行うことが重要です。これは環境経営にも大きく貢献します。

今後はデータセキュリティの課題をクリアすることで、より拡大し浸透していくと考えられます。

まとめ

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、データの管理や人材確保などの課題があるものの、今後の拡大が期待されている取り組みです。材料開発において、多様なニーズに応えるため必要性が高まっています。

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