COLUMNS コラム

データ活用を阻む3つの課題。その原因や対応について解説

デジタルデータの流通量増加やグローバル競合との競争激化を背景に、企業によるデータ活用が活発化しています。総務省の2020年度調査によると、大企業だけではなく中小企業もデータ活用に取り組んでおり、経験を重視した経営からデータドリブンな経営へシフトしてきています。

しかしデータ活用の効果を発揮するには、人材の確保や分析に必要なデータの収集、分析環境の構築といったさまざまな壁を乗り越える必要があります。

この記事では、データ活用を検討する方に向けて、データ活用時の課題やその背景・対処法、理想の結果を導くために重要なポイントを解説します。

データ活用の目的と現状

各社ともデータ活用に向けた体制変更や資産投下が始まっているデータ活用。あらためてこの章では、データ活用の目的と現状について紹介し、続く章にてデータ活用を阻む課題とその対策について解説します。

データ活用の目的


データ活用の目的を分類すると、攻めの活用と守りの活用に大別できます。

新規事業の創出やイノベーションの実現

攻めの活用とは「顧客や市場調査・分析」や「商品やサービスの検討・改善」などといった新規事業創出やイノベーションの実現につなげる取り組みです。売上データの分析や最近の消費動向の調査などによって自社の販売戦略の改善につなげたり、競合の状況を調査し根拠に基づいた経営判断や新たな事業の策定など、現状にイノベーションを起こしていくための積極的なデータ活用方法となります。

たとえば医療業界では、新たな治療法の研究や創薬の分野を中心にさまざまな医療データが活用されてきましたが、近年ではさらに積極的なデータ活用への取り組みもはじまっています。臨床データから読み取れる患者個人の生活習慣や既往歴を踏まえた処置や投薬指導を個別にカスタマイズする個別化医療の研究や実証実験が進むなど、新たな医療提供体制の構築が検討されています。

業務プロセスの改善や生産性の向上

対して、守りの活用とは「業務プロセスの強化」や「生産性向上」など、現状の負を解消していく取り組みをさします。属人的な業務をデジタルに置き換えて効率化したり、生産管理データや在庫・物流データの分析によるリソース最適化・生産性向上につなげるなど、現状をよりよくするためのデータ活用も、製造業や金融業を中心に取り組まれています。

たとえば、製造過程における検査業務では大量の商品を正確に検品しなければ、予定した商品が出荷できず在庫の欠品状態に陥ります。さらに商品の異常を察知するたびに生産ラインを停止せざるをえず、ダウンタイムによるコスト効率低下も課題でした。

そこで生産ラインに高精度カメラを設置し、大量の画像データから商品の状態を素早く分析。出荷できない製品のみをロボットが自動的に取り除き、検品作業を効率化することで、生産性向上につなげています。

データ活用の現状


このように、データ活用によってさまざまなメリットや利点がある一方、実態としては活用が進んでいる分野と活用の進みづらい分野に差が出ています。

この章ではデータ活用の現状について、総務省による調査結果を元に紹介していきます。

大企業を中心に進むデータ活用

デジタルデータの活用による経済的価値についての調査では、中小企業に比べ大企業のほうが活用度合いが高いなど、企業規模によってデータ活用の進みやすさは異なります。

この理由として、企業規模が大きくなるほどデータ活用で求められる効果が高度になる傾向があり、それに見合った専門の知見を持つ人材や予算の確保をするために、データ活用状況の差が生まれたと推察されます。

主に企画系部門と管理系部門が活用を牽引

データ活用の主幹部門を調べた調査によると、業界を問わず「企画系」「管理系」「情報システム系」の部門での活用が進んでいます。企画系に分類される役割としては、経営企画や事業企画など事業の戦略や方針を司る役割が多く、新たな事業の創造などに向けた分野で「攻め」のデータ活用が進んでいるといえます。企画系に次いでデータ活用の進んでいる総務経理といった管理系部門、社内のITインフラを管理する情報システム系部門では、企業の体制保守や内部統制・業務プロセスや効率などの見直しなどにデータが活用されてきています。

 

出典:株式会社NTTデータ経営研究所

 

活用方法によっては「効果なし」の場合も

大企業や企画系部門・管理系部門でデータの活用が進む一方で、データ活用には複合的な課題が存在しています。たとえば、データ活用戦略策定・評価の難しさから単発のデータ活用になってしまったり、データサイエンススキルの不足を外部委託や社内教育による補完を試みるも効果を感じられていないなど、複数の障壁が生まれています。

NTTグループでの調査によると、データ活用の課題に取り組む企業ではさまざまな対策が行われていますが、その3割がいまだ効果を感じられていないと回答しています。

出典:株式会社NTTデータ経営研究所


データ活用はさまざまな分野で進みつつも、取り組みの幅や深さ・粒度にばらつきがあることから、データ活用を取り巻く課題は複雑に絡み合っています。それぞれに対する万能薬がないために対策の効果を感じられないとする割合も一定数を占めています。

ここからは、データ活用に共通する課題とその対策を紹介しますので、データ活用に向けた基本的な対策として参考にしてください。

1.活用に必要なデータの整備、前処理コスト


データ活用にあたって必要な工程に「データの準備」があります。収集したデータがそのまま使えるわけではなく、使える形に変更する必要があります。よくある状態は、量や一部のデータが不足したり、形式が整っていないために統計が取りづらかったりといったデータの揺らぎなどの修正が必要になるケースです。データを整備しないまま解析をしてしまうと正確な値や意図する結果を得ることはできないうえ、誤った判断を招くことも。データ活用にかかるコストも回収できなくなってしまいます。

2.情報漏えいや改ざんに備えるセキュリティ対策


データ活用が盛んになるほどに懸念されるのが、データのプライバシーとセキュリティの問題です。特に2022年4月に施行される個人情報保護法改正ではデータ漏えい時の個人情報保護委員会に対する報告が義務付けられました。また、個人情報をはじめとする機密データの漏えい事件は企業規模が大きいほど大々的に報道される傾向にあり、ひとたび情報漏えいが起きれば、経済的にも企業価値の観点でも社会的失墜を免れません。

そのため、データ活用時には企業の機密なデータを外部から見られないよう、データの保管時や共有時だけではなく活用時も情報漏えいや改ざんの対策が必要です。

具体的な対策については続く章でご説明します。

3.データを適切に扱える人材の採用・育成


一般財団法人データサイエンティスト協会によると、”データサイエンティストとは、データサイエンス力、データエンジニアリング力をベースにデータから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出すプロフェッショナル”と定義されています。

一見、広義にデータを扱うことをデータの活用と呼ぶのであれば専門職ではなくてもデータを活用することが可能に思えますが、データサイエンティスト協会の定義にあるように、専門的なデータ活用をする際は活用目的に対して分析に必要なデータを調達し、加工を施しながら分析が可能な状態まで導くスキルが必要です。さらにデータ解析スキルだけではなく、その結果をビジネスに応用するための知識も必要となるため、社内にその人材を確保できるケースは多くありません。

そもそも、データ活用に必要な専門知識を習得するための教育機関や、社内にデータサイエンティストを雇っている企業が少ないこともあり、実務経験を通して知識を身に着けることは困難です。

さらに、データサイエンティストは、近年のDX推進の波からますます求められているIT系人材の中でもさらに希少な「先端IT人材」に分類される人材であるため、日本の教育機関でも対策がはじまり、各社がしのぎを削って人材の確保を行なっています。

データ活用を取り巻く課題への対策方法

ここまで、データ活用にはさまざまな課題があることを紹介してきました。中でも、データそのものの課題、活用時のセキュリティ対策、組織・人材の確保といったデータ活用における「共通課題」について事前に目を向けておくことで、自社のデータ活用に向けた対策を効率的に行えるようになります。

ここでは、上述のデータ活用を取り巻く課題に対してそれぞれの対策を紹介します。

1.データ活用基盤の整備


データ活用には、データ収集と蓄積が必要です。データを収集し始めてからデータが不足していることに気づいたりデータが使える形ではないと判明したりすることもありますが、これらを適切に対処するためにはデータ活用基盤の整備が必要です。

データベースの整備に使われるデータ分析基盤は、データレイク、データウェアハウス、データマートの3層によって、データの収集・蓄積から分析までを行います。具体的にはデータレイクでデータを集め、データウェアハウスでデータを分析用に加工し、データマートでデータを分析・可視化します。

これらの工程でもっとも重要なのは「データを使える形に加工する前処理」、特にデータフォーマットやデータフロー、命名規則等の整備です。

たとえば、データの入力時のフォーマットがバラバラな場合はデータ生成時に統一感のないデータが生み出されるため修正にかかる人的コストは増大します。そもそもデータフロー(データの入力から保管・出力に至るまでのプロセス)が未整備であれば最終的に蓄積されるデータから、分類できるような傾向値を確認することから始めなければならず、かなり非効率です。

そのため、データの活用に向けては、データ活用基盤の準備とともに、データフォーマットやフロー、命名規則等を事前に共通の認識として策定しておくことが重要です。

2.データベースへの暗号化等のセキュリティ対策を実施


データのセキュリティ対策はデータ活用時代において重要視されはじめていますが、なかでも重要なのは「データを活用している間のセキュリティ対策」です。主要なセキュリティ対策に暗号化がありますが、従来の暗号化ではデータを収集・保管する際にのみ暗号処理を行い、分析などの活用時には暗号を一度解いて生のデータ(平文)に戻して処理する必要がありました。この時に外部からの攻撃を受けた場合、データが漏えいする恐れがあるため、収集・保管・活用にわたって暗号化できる環境の整備が求められていました。

EAGLYSの秘密計算技術を応用したソリューションは、データを暗号化したまま共有も分析もできます。平文に戻してデータを処理する必要がないため、外部からの攻撃による生のデータの流出を防ぎます。

以下ページでは、データを暗号化したまま共有・分析が可能な秘密計算ソリューションの「DataArmor GATE DB」を紹介しています。既存のデータベースとWebアプリケーションの間にインストールして使うソフトウェア(現システムにアドオン導入できるゲートウェイ)で、迅速かつ容易に導入いただけます。ご興味のある方はぜひ、ご覧ください。

https://www.eaglys.co.jp/product/gate-db

3.求める要件を整理し、社内外のリソースを活用


データの活用には専門的な知識が必要であることを紹介しましたが、その専門家のデータサイエンティストは希少な存在であり、採用は簡単ではありません。そのため、中長期的にデータ活用を続けることを見越して、データサイエンティストの登用方針をきめ、活用目的に応じた体制を検討することが必要です。ただ、社内にデータ分析の実務経験者がいない場合は社内専門チームの策定のハードルはより高まります。そのため、中長期的なデータ活用を検討する際にはデータ活用支援を多く経験するパートナーに相談し、本来の目的に沿った解決策に誘導してもらうという方法もあります。

まとめ

データ活用への取り組みは各所でおこなわれ、さまざまなデータ活用事例も生まれてきていますが、データの活用目的や活用するデータそのものの粒度や幅によって、データ活用の効果を感じられる場合とそうでない場合に差が生まれているのも事実です。

しかしデータ活用前の準備や、セキュリティ対策、専門家確保といったデータ活用における共通課題から対策することで、一見複雑にからみあうデータ活用課題へも対策は可能です。

EAGLYSでは、データを収集する際のセキュリティ課題から、分析・解析といった活用にいたるまで、企業のデータ活用を一貫して支援し続けてきた経験があります。

データ活用における基本的な課題である「データの不在」と「セキュリティ対策」を同時におこない、データの活用を捉え直す上でも重要な「専門的な相談」からも承っておりますので、データ活用を検討される際にはお気軽にご相談ください。

 

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